マブラヴ オルタネイティヴという作品の意義
「いい加減現実に向き合え」というメッセージ
2000年代中盤のギャルゲー業界は割とそういうメッセージを残すゲームがありました。Keyの「AIR」や「CLANNAD」もそうでしたが、ゲームで現実逃避しようとする人に「現実を受け入れろ!」というメッセージを突きつけるのが「マブラヴ オルタネイティヴ」という作品です。
マブラヴオルタネイティヴにおいては、世界を救うと息巻いていた主人公が、死を目の当たりにした瞬間に全てが崩れ、客体世界に逃げるのですが、本来いた世界に戻ってきたはずなのに散々な目に遭い、結局また物騒な別世界に戻ってきます。あの時点では武にとっての現実は別世界になっており、客体世界に帰ったというのが言ってみれば現実逃避です。現実逃避をしても何も解決できず、BETAのいる世界と変わらないような悲劇に見舞われることになります。
武の台詞にもそれが表れています。
まず自分自身を変えて、現実を受け入れた上でそれを変える努力をしなきゃ・・・いつまで経っても同じ事の繰り返しなんだ。
武はそもそもアンリミテッド編で並行世界にやってきた時にも、その世界を認めようとしませんでした。香月博士のセリフ「いい加減認めたらどう?」だったり、彩峰のセリフ「どこに逃げても同じ」だったり、マブラヴには「現実を受け入れろ」「現実に向き合え」というメッセージが至るところに込められています。
最終的に、主人公は敵の親玉である「あ号標的」を倒して英雄になったかのように思われますが、その時には既に武にとってBETAのいる世界は現実ではなくなっており、英雄でいる時間は束の間、武は元の世界に帰り、ゲームはエンディングを迎えます。エピローグは「現実にも良い事はあるぞ」というメッセージにも感じられ、このあたりはシナリオライターの優しい所だと思います。
まりもちゃんが殺されるあの場面で、プレイヤーは本当の意味でゲームに引きずり込まれます。それまでとは比較にならないほど、登場人物の言葉がプレイヤーの心に直接届くようになるのです。強引な手段ですが、武とプレイヤーの間にある壁をぶっ壊して「現実」を直視させる試みです。
安らぎを求めてマブラヴをプレイしようと思った人には酷ですが、現実逃避はするなという強いメッセージが込められています。
「セカイ系」へのアンチテーゼ
マブラヴオルタネイティヴには「セカイ系へのアンチテーゼ」という側面もあります。
セカイ系というのはエヴァンゲリオンや涼宮ハルヒの憂鬱、YU-NO、ラーゼフォン、エウレカセブン、まどかマギカ等に代表されるような、主人公とヒロインの関係や問題のような狭い世界の出来事が、中間の過程を飛ばして一気に「世界の危機」や「世界の命運」に直結したり、拡大するような作品群のことです。
マブラヴも一見セカイ系っぽいのですが、世界を救うためにしなければならないことが明確に示されており、一種のアンチテーゼのように感じられます。
主人公の台詞からもそれを窺う事ができます。
どんなに能力があっても、たとえ未来を知っていても、ひとりの力じゃ何もできねえんだよッ!!
自分だけが悲劇を背負って・・・・・・罪を背負って・・・・・・ひとりで世界を救うなんて絶対出来ねえんだ!!
セカイ系の特徴として「経済や社会情勢などのリアルな情報が極めて少ない」というのがあるようですが、マブラヴオルタネイティヴは正反対にこれでもかというくらいに政治や社会情勢が細かく描かれています。
マブラヴの手法
ハーレムを逆手に取った作り
マブラヴEXTRAやマブラヴ UNLIMITEDは思いっきりハーレムモノとして作られていますが、マブラヴ オルタネイティヴはハーレム作品へのアンチテーゼになっています。
ハーレムモノというよりは、ヒロインがたくさんいて、その中から誰か攻略して・・・というような恋愛アドベンチャーゲームの設定を逆手に取ったと言ったほうが的確かもしれません。
主人公・武は、アンリミテッド編で純夏以外のヒロインと結ばれるルートが用意されています。そしてその事が、オルタネイティヴの甲21号作戦で00ユニットが自閉モードに入ってしまう原因となります。
マブラヴの重要な要素に「並行世界」があります。ゲーム内では「確率時空」などと呼ばれていますが、武はある世界では冥夜と結ばれるし、ある世界では委員長やたまと結ばれる、また別の世界では美琴や彩峰と結ばれます。
武がループの中で経験してきた他のヒロインとの性的なシーンを頭に思い浮かべた事で、それをリーディングした00ユニット(純夏)がトラブルを引き起こし、それが原因で凄乃皇が擱座、最終的にはみちるや柏木の命が失われる事につながるわけです。
マブラヴEXTRAやマブラヴUNLIMITEDが攻略するヒロインを選べるのとは対照的に、オルタネイティヴでは純夏以外のルートは存在しません。そしてそこで、純夏以外の他のヒロインと恋愛をした事を精算させられるというのは面白いシナリオです。
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