Keyの「クラナド」のストーリーの解説です。
CLANNADの解釈・解説
汐の死
主人公・岡崎朋也とヒロインの古河渚の娘の汐(うしお)は、ある冬の日に原因不明の高熱で死んでしまいます。
アニメやゲームではこれは最終盤に描かれていますが、実はここが物語の真のスタートです。
町の意思と幻想世界
クラナドには幻想世界が登場します。
この幻想世界は、岡崎達が暮らしている町のもう一つの姿です。
古河渚は子どもの頃に高熱を出して死にかけます。しかし、父・秋夫が”願いが叶う場所”へと渚を連れていったことで、渚を助けたいという願いに呼応した町の意思によって奇跡が起きて救われます。
その際、渚は町の意思と繋がってしまい、工事や建設によって町が大きく姿を変えるとき、渚は熱を出して体調を崩してしまうようになりました。
町にとって、工事や建設で景観が大きく変えられるというのは痛みなのでしょう。それが渚に体調不良として反映されてしまっているようです。
逆に言えば、渚は町と繋がったおかげで、町の住人を助けたいという”町そのものの意思”によって救われたのです。
宮沢有紀寧が語っていますが、かつて町とその住人達にはもっと深い繋がりがあったものの、時代が進むにつれて、その繋がりは薄れていったようです。
渚が幻想世界での出来事を知っていたのは、町の意思との繋がりを持ってしまっているからなのだと思われます。
渚のその特殊な体質は娘の汐にも受け継がれてしまっていました。
汐が体調を崩したのも、ショッピングモールの工事が行われるタイミングです。
幻想世界での旅
汐は死んでしまった後に幻想世界に移動しています。
岡崎も幻想世界へ招かれます。岡崎は幻想世界ではブリキのおもちゃのような姿をしています。
正確には岡崎の汐を助けたいという思いが光の玉となって幻想世界に招かれたのだと思います。そして、少女が作ったガラクタの人形の中に宿った。
岡崎は少女に出会います。この少女は汐であると同時に町の意思そのものでもあります。「町」というものを擬人化したのだと考えれば良いかと思います。
ただし、幻想世界に時間の流れはありません。季節が移り変わっているように見えますが、時間は流れていません。
幻想世界には『獣』がいます。しかし獣は現実世界での生命ではありません。獣は現実世界では人工物で、風子が作ったヒトデの彫り物や、だんご大家族のぬいぐるみ、さらには工事をする機械などを意味しています。
僕(岡崎)は、少女(汐)を終わってしまった世界から助け出したいのです。幻想世界と現実世界は表裏一体です。終わってしまった世界=汐が死んでしまう世界
岡崎と少女は幻想世界を旅し、その旅の最後に、町の人々を救って光の玉を集めたら、願いを叶えられるということを伝えられます。
光の玉は町の住人の思いが具現化したものであり、一つ一つは小さく弱くてもたくさん集まれば願いを叶えられるほどの力になる。
概念としては、町という場所の中で誰かを幸せにしたことが、巡り巡って自分に還ってくるという理屈です。それが膨大な量であれば、奇跡も起こせるかもしれない。
幻想世界での旅の終わりに世界は消滅し、岡崎はまた高校3年生の最初の日に戻ります。
幻想世界が始まったのは汐が雪の日に死んでしまった時であり、幻想世界が終わるのは渚に出会う前、高校3年生の春です。
”この町は嫌いだ。忘れたい思い出が染み付いた場所だから。”
作品冒頭のこの台詞は、岡崎が既に渚と汐の死を経験しているからです。ただし、岡崎には記憶はほとんど残っていません。
最初の日に戻る
このあたりはゲーム的なメタなのですが、
「各キャラルートを攻略した後、ゲームを最初からやり直す」という部分を、岡崎が「僕」として幻想世界を旅した後に最初の日に戻るという設定で説明しているのです。
ゲームでは各キャラのルートをクリアすると光の玉が手に入ります。ほぼ全てのルートは様々なキャラクターが抱えている悩みや問題を解決するという内容になっています。
幻想世界の「僕」には岡崎としての記憶がほとんど残っていないことから、渚と汐を救いたいという思いだけが幻想世界に移動したのかもしれません。
岡崎は町の様々な人々と出会い、彼ら/彼女らを幸せにし、光の玉を手に入れていきます。
下の画像はゲームのスタート画面ですが、画面の左下に光っているものがあると思います。それが光の玉で、各キャラのルートをクリアすると増えていきます。

要するに「このゲームのストーリーは(汐が死んでしまう)バッドエンドだけど、各ルートをクリアして光の玉を集めたら、ハッピーエンドが見られますよ」というゲーム的な側面を表しています。
光の玉となった岡崎の思いが幻想世界を通じて時間を戻って、最初の日にやってきたのです。
幻想世界の最後で少女が倒れる理由
幻想世界の旅の最後に少女は雪の中に倒れます。
なぜなら、旅の終わりは現実で岡崎が渚に出会う前の日だからです。
坂道で渚に声をかけなければ岡崎が渚と結婚することもなく、汐も生まれません。だからその分かれ道まで戻った時、幻想世界の少女(汐)も消えてしまうというわけです。
光の玉が集まり、願いが叶えられる
岡崎(=プレイヤー)が必要な光の玉を全て集めた時、願いを叶えるという町の意思の力によって渚が救われ、ハッピーエンドを迎えます。
岡崎は再び渚に出会い、恋をして、結婚し、渚に子供ができます。
以前は出産で死んでしまいました。
しかし、幻想世界で言われた通り、集まった光の玉(住人達の思い)によって町は渚を死から救います。
渚が助かった時、世界は光の玉に包まれます。まるで渚が助かったことと、汐が産まれたことを祝福するように。
現実世界で見えている光の玉は、少女、つまり「町」の思いだと、幻想世界編の最後で語られています。
少女=汐は、岡崎から渚の話を聞かされています。ですから、少なからず母である渚にも幸せになってほしいという想いがあったのではないでしょうか。幻想世界の少女は町の意思でもあるのです。
最後のシーンに登場する少女と汐の意味
ラストシーンで風子が「可愛らしいにおい」を感じて探していた先にいた汐の意味について。
あれは幻想世界の少女が汐として転生したことを意味しています。
あの時、汐は神隠しにあっていたことが、後日談で明かされています。いなくなって、突然病院近くの木の下で発見された。
汐が雪の日に力尽きてしまう世界で岡崎が「汐を救いたい」と最後に願いました。
汐は雪の降る日の最期に幻想世界へと渡って町の意思と同化しつつありました。しかし、光の玉となった岡崎の願いは、幻想世界で少女が作った人形の「僕」に宿り、そして少女(汐)と再会し、幻想世界の最後で、全てが始まる前の最初の日の岡崎の中に還ります。
渚が助かった世界では、風子は汐に会ったことがないのに、汐のにおいを覚えていたのです。
「風子が目を覚ましたのは奇跡」だと医師から言われたと公子は語っています。風子が目を覚ましたのはおそらく、「町(=幻想世界の少女=汐)」が『風子の幸せを望んだから』なのでしょう。なぜなら、「町(汐)」は、生霊になった風子が渚たちと過ごした時間のことを知っているから。少女(汐)にとって、風子は自分の親の友人なのです。
渚と汐が死んでしまう世界では、風子が汐に会って、においを覚えたと言っていました。
このことから、町や人の思い(光の玉)は枝分かれした世界の間を行き来することができるのだと思います。
つまり、あの雪が降る日に力尽きた汐は、幻想世界を経て、渚が救われた世界に転生することで助かったのです。これは、あの日の岡崎の「汐を助けたい」という願いが叶ったことを意味します。
風子が最後に言う「楽しいことはこれから始まりますよ」という台詞。これは汐に対して言っているわけではありません。転生する前は幻想世界に一人でいた少女に対して言っているのです。
「町にも心がある」というテーマ
これは最後に渚が全て語っています。
町にも人と同じように意思や心があり、自分の住む町が好きな人がいるように、町もそこに住む人を愛し、幸せにしたいと思っている。
CLANNADのストーリーでは町が人を救い、人も町を救ったのです。助け合う関係、町は大きな家族だと渚は言います。
風子とことみのストーリーについて
伊吹風子は意識不明で入院中ですが、岡崎の高校時代に生霊として学校に現れます。
風子も町の意思の力の影響を受けた存在だと推測できます。
町の意思が、意識不明の状態の風子の「姉の公子の結婚を祝いたい」「学校に行きたい」という願いを、生霊という形で叶えたのでしょう。
風子が町の意思の力の影響を受けたからこそ、本編の最後の最後に、まだ汐と出会っていない風子が、汐のことを知っているかのような台詞を言います。
一ノ瀬ことみのストーリーでは、超弦理論に触れられています。要は我々が認識している「3次元+時間」という空間以外にも見えない次元が存在しているという話です。それがクラナドの幻想世界を説明しているのでしょう。
岡崎が渚と結ばれないと・・・
岡崎が渚と結ばれず、他のヒロインと結ばれると悲劇が起こります。
岡崎は記憶を失っていき、最終的に若くして死んでしまいます。
スピンオフの「智代アフター」のラストでそれが描かれています。
これは、岡崎が町の意思の力によって最初の日に戻されようとしているためです。
幻想世界側からの解釈
幻想世界を基準とした解釈もできます。
幻想世界には「僕」と「少女」がいて、旅の終わりで少女は倒れてしまいます。
「僕」は少女を救いたいと願い続けていた。
そしてその願いは、現実世界にいる僕(岡崎)が集めた光の玉、つまり、町の住人の思いによって叶えられ、少女は幻想世界(終わってしまった世界)から岡崎達がいる世界に汐として転生することができた。
幻想世界の少女は町そのものですから、これは「人が町を救った」ということになります。
だからこそ、ラストシーンで少女と汐が重なる演出があります。

全体の流れ
岡崎が高校で渚と初めて出会い、恋人になり結婚するが、渚が出産時に死亡してしまい、生まれた汐も冬の日に死んでしまう(世界の終わり)
↓
岡崎の思いは幻想世界へ。幻想世界の終わりで少女から光の玉を集めるように言われる
↓
幻想世界の「僕」の思いを宿した光の玉が渚と出会う前の日に戻る
↓
岡崎(プレイヤー)は町で様々な人々と出会い、彼らの悩みや問題を解決し、光の玉を集める
何度も何度も繰り返し、光の玉を集めていく
↓
光の玉を集め終わった後、岡崎は再び最初の日に戻り、渚との出会いや結婚、出産を経験する
↓
集められた光の玉の力によって渚は助けられる
↓
幻想世界の少女は汐として新たな世界に転生する
様々な”可能性”
クラナドは恋愛アドベンチャーゲームなので、岡崎が渚以外と恋仲になるルートも当然あります。杏、ことみ、智代、風子・・・。それ以外の岡崎自身の恋愛とは関係ないルートもたくさんあります。
ことみのルートで語られていますが、そういった可能性が「無数に」かつ「同時並行的」に存在します。
それをゲーム的にはシナリオ分岐と言います。
渚と汐が死んでしまう世界もあると同時に、渚が町の意思によって救われる世界もある。
渚を救うには光の玉が必要で、岡崎を通してそれを集められるのは我々、ゲームのプレイヤーだというわけです。
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